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病院や老人ホームなど様々な分野で、歌あるいは楽器を使いながら、音楽で人の体の機能を回復させようという【音楽療法】の活躍の場が広がっています。 老化や障害による難聴者が大多数の高齢者に「さらなる音楽療法の効果向上をはかり、音質のよい音楽を楽しむ機会をつくるため」骨導補聴器を利用した試みが注目されています。 今回はデイケアでの限られた時間内で効率よく、かつ一人でも多くの高齢者が 音楽鑑賞にふれ、楽しめる機会をつくりだす方法も模索してみました。 |
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「高齢化社会」は「難聴化社会」でもある、と朝日新聞が難聴者対策の遅れに警鐘を鳴らしてから5年、さらに寿命がのび聴覚障害をもつ人の数は増え続づけています。 65歳以上で7割、80歳以上では8割の方が何らかの難聴であると言われて おり老人クラブやデイサービスセンターの利用者を対象にした報告でも補聴器をしている人の実に93%が聴力に「不自由を感じたことがある」と答えたそうです。 聴力低下は「脳の活性化を妨げ生活の質の低下をひきおこし、痴呆の原因のひとつ」とも考えられています。超高齢化社会を目前にして各個人が予防・リハビリテーションを行いやすい環境、コミュニケーションツールを上手に活用できる知識・給付制度・環境など社会全体として整える必要があり、社会環境の改善、高齢者(難聴者)に対しての社会の理解を進め、さらなる「難聴化社会対策」を急がねばなりません。 『聴覚障害者のリハビリテーション』の著者、 Max.S.Charturand 博士は聴覚 障害者を助ける可能性のある全てのコミュケーションのなかで、「音楽の技術と鑑賞力を育てる事が、難聴のためにおこる様々な問題に対し最高の影響力をもつ」と提言しており、すでに欧米では「音楽療法」が治療の一方法と認められています。 音楽療法は「聴覚のリハビリにより、多くの音や情報を脳に伝達し、脳の活性化を促す効果や精神的な安定、心の癒しにも効果的である」ことなども実証されており、特に高齢社会ではさまざまな分野で寄与できる事が多いそうです。 ようやくわが国でも音楽家と精神科医で「全国音楽療法連盟」を発足させ音楽療法のレベル向上を図る動きもはじまりました。 「脳性まひ、痴呆症、摂食障害患者に効果が見られ不眠症患者では熟睡促す効果を実証。減薬まで期待できる」と報じられています。 |
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高齢者への疑似体験では耳栓をします。多くの高齢者は耳栓をした状態の聞こえで会話の内容や表情、口の動きなどで聞こえの悪い部分をカバーし想像しコミュニケーションをとっています。 難聴を擬似的に実感する目安として、耳栓は軽度〜中度難聴に相当し、耳に人指し指を軽く挿入した場合は軽度難聴程度に相当する、といえます。 高齢者は一般に老化による難聴が日々すすんでおり「老人性難聴」の特徴である「音の歪み」と「高音域からの聴力低下」が、ある程度さけられません。これらの状態を少しでも改善し「幅広い周波数帯の音、それぞれの楽器の音質・音色、ゆるやかなメロディー、リズムを味わえる環境をつくる」ことこそ音楽療法の効果を短時間に向上させることになります。 「右脳」で楽器の区別、メロディー に対する分別をし、「左脳」で音楽の情感を 味わう。その2つの連携による効果を最大に引き出せる環境をつくるためには、音楽をそのままの音として、きちんと聴取できることが必要です。 骨導補聴器(WD−2011)は、周波数帯が幅広く音質のよい音楽を鑑賞することが可能な補聴器です。(操作は簡単で、小型で場所もとらず持ち運びも楽です。音楽鑑賞だけでなく普段の会 話での手頃なコミュニケーションツールとして、業務用にも使用されています) 1台で軽度から高度難聴者までも対応でき、耳に挿入しないので衛生的であり、主目的である「ひとりでも多くの高齢者に音楽を聞いてもらい聴力のリハビリによる脳の活性化と精神的な安定をもたらすため」の「ツール」として適しています。そのため、「骨伝導ならではの効率のよい聴覚系のリハビリテーション」が期待できます。 |
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協力していただいた方は、神奈川県横浜市N整形デイケア利用者のうち82名(75〜93歳)。 重複者を含めのべ92名。期間は、平成11年11月8日から11月12日まで。 デイケアメニュー開始時間前の待ち時間と、電熱治療(ホットパック)時間の15分間の時間内。 (電熱治療器:ホットパック2台・ほぼ午前のみ:のべ18時間) 音楽を聞くことで 耳や脳の運動(聴覚のリハビリ)になるとご説明し、希望者のみ、骨導補聴器(WD−2011)を体験。 「美空ひばり」「モーツアルト」「スイング・ジャズ」のCDを用意し、体験希望 者自身が選曲。 |
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82名中81名が体験し78名から評価(満足)をえられました。 未体験者1名は、聞こえないとのことで中途中止、81名中3名は感想表現なく、効果は不明でした。 選曲はほとんどの方が、美空ひばりさん。やはり人気は高いようです。 どのような曲がお好きですかと、おたずねしますと、「演歌ならなんでも」というお答えが最も多く民謡、軍歌、クラシックと続いて、なかにはシャンソンという声もありました。 |
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高齢者の難聴は老化により日々進行し、少しづつ聞こえが悪くなるので本人も気づいていない場合も多く、気がつく頃にはかなり難聴が進行しています。耳元で大声で話さねばならない状態になれば、子音の聞き取りも大分曖昧になっており、そのまま放置しておくと言葉(語音認識)の区別もできなくなってしまいます。 ただたんに「耳が聞こえにくいということ」を「老化による理解力の低下」であると混同し誤解してしまう傾向が一般にあるため、聞こえにくいことを隠そうとする気持ちを持つ方が多いという現実があります。 そのため、多くの高齢者は「補聴器」と聞くと顔の表情が暗くなります。「私は聞こえるから大丈夫」「補聴器はうるさいから嫌い」など色々な理由をつけ何とかその場を逃げ出そうとされる人も多いのです。 けれど、適切な補聴器を使用することは「聴く能力」を保持するためには、必要なことなのです。 高齢化社会にあって 高齢者の心情を知り「高齢者の生活の質を低下させないためにも聴力の低下を防ぐことが重要」であり、その結果、家族やお世話する方の心理的・体力的・経済的な負担も軽減できるのです。 聴力の低下を防ぐための簡単な一つの方法として、音楽療法は効果的です。 音楽を好きな人も好きでない人も「耳や脳の運動になります」とご説明しますと、ほとんどの方が納得され、「お願いします」「ありがとう」のお礼まで言われ、みなさんの受容心は十分にあると思いました。 音楽鑑賞が始まり5分もしますと、曲に関しての話や感想が始まり、そこから思い出話へと進むことも多く、「聴覚」だけでなく「脳の活動」にも役立ちます。 電熱治療と同時に行う15分の音楽鑑賞は、リラックスして集中できるうえに体力の負担にもならないように見受けられ、効果的な環境であると思いました。 (スタッフ、アボランティアさんの手間もセットする程度で効率的です) わずか15分間の音楽鑑賞でも、初期のボリュームが最終的に1目盛り下がり、話しがよく聞こえるようになったと自覚した方、話のスピードが速くなった方もおられ、実際的な聞こえの反応についても改善がみられる場面もありました。 |
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「音楽療法」はホリスティック医学(自然治癒力を生かす医療)のひとつで年齢、性別に関係なく一人の病人(半健康人含む)を精神面も含めて総合的に考えようというものです。 団体・グループ・個人と、それぞれにあったプランで実行することができ、個人の場合は特に病状・精神・心理状態・その時々の体調により楽器演奏・音楽鑑賞など症状にあったプラン(選曲も含め)をたて、各個人の「自然治癒力」 が一番良い形で働くようなアドバイスをします。 今回の試みは対象が高齢者であり、音楽療法の基本(基礎)の「よく聞こえる環境をつくる」準備であり、音楽療法の重要な一部だと思うことができました。 (デイケア院長先生とスタッフ・体験者の皆様のご協力に心より感謝して |
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